窯業系(セメント系)サイディングの外壁塗り替えでは,
塗装前の処置として,コーキング(シーリング)の補修が必須です。
それをどの程度行うかで,手間が(業者に依頼する場合は費用が)かなり違ってきますが,
ただでさえ短命な部分なので,いいかげんに済ませると,後悔することになるでしょう。
とりあえず,以下2つのページを熟読してください。
※ 外壁塗装 サイディング編(<「塗り替えQ&A」[Q.01]何年目で塗り替えればよいのか?)
※[Q.13]サイディングの塗替え時にコーキング(シーリング)はやり直しをすべきか?
現状,コーキングがサイディングの断面から剥がれたり,裂けたりしていて
サイディングの内側まで貫通している状態の場合は,水洗い・高圧洗浄を行う前に
コーキングの補修を済ませます。(サイディングの内側に水が入ってしまいますから)
それでは,以下,作業手順です。(複数の現場の写真が混じっています)
【1】既存コーキングの撤去
カッターで切れ目を入れます↓
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コーキングがこのくらい↑傷んでいる場合,切れ目さえ入れれば,あとは簡単につまみ出せます。
取りにくい場合は,ラジオペンチで引っ張ります↓
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以上で撤去完了,と思われがちですが,セオリーからするとこれだけでは不十分です。
サイディングの断面には,まだ古いコーキングが薄く残っているので,
それをカリカリとカッターで削ぎ落とします↓ |
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アップです↓ |
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この,“削ぎ落とし”をやるかやらないかで,手間がぜんぜん違います。
そこまでしなくても平気だよ,という意見の人もいますが,やらないよりはやった方が良いです。
(どこまでやるかは貴方次第,あるいは業者次第,または予算次第です)
これをやるとカッターの刃はすぐに切れなくなるので,少なくとも50枚くらいは用意しましょう。
※9万円くらい(?)しますが,コーキングを撤去するための電動工具が存在します。
モーターで刃が振動するカッターのようなもので,「コーキングカッター」とか
「コーキングチッパー」
とよばれます。
当店でも購入を検討したことがあり,使用経験のある人2名に感想を聞いたところ,
切断面が深い場合はカッターよりぜんぜんラクだそうですが,一般的なサイディングの場合は
切断面が8ミリ程度であり,手間のかかる“削ぎ落とし”は手作業で行うことになるわけで,
あまりメリットは得られないであろうと判断してヤメました。
サイディング同士の継目を「目地」,目地の突き当たり面は「目地底」とよびます。
このページの冒頭からリンクしたページでも書いた通り,
コーキングは目地底には接着していない=「2面接着」が正しい施工であり,
上の写真の青いものは「ハットジョイナー」の上に張られていた絶縁テープ「ボンドブレーカー」です。
ところが,まれに,目地底にも接着している「3面接着」になっていることがあります。
その場合,両側にカッターで切れ目を入れても目地底に張付いていて取れませんので,
ラジオペンチで引っ張りながらマイナスドライバーでこじって取ることになり,結構厄介です。
そんなときは,「土牛産業」の「コーキング取り」↓がおすすめです。
建築金物店に注文すれば入手できると思います。
※この工具は 私のリクエストで作られました (^^)
そのドラマチックな?経緯についてはブログの『土牛産業の「コーキング取り」 』をご覧ください。
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それから,コーキング部分の正面に縦樋がある場合,縦樋は留め具から外してずらす↓か,
取り外して行います。
(ずらすことも取り外すこともできなければ切断するしかありませんが,切断する場合は
同じ縦樋の繋ぎの部材「ジョイント」が入手可能かどうか確認してからにしましょう。)
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余談ですが,
縦樋と重なる目地を“省略”する不届きな業者もいますから,業者に依頼する人は注意しましょう。
下は,たまたま当店が工事したお隣のお家の写真で,『2年前にコーキングの工事をした』そうです。
(撤去・打ち替えが行われていれば,2年でこれほど劣化することはありません)
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なお,窓の外周部や入隅も,「剥がれている場合」と「裂けている場合」は撤去してやり直すのが
ベストです。
「痩せている程度」ならば撤去せずに上から重ねて充填する「増し打ち」(打ち増し)で良いと思いますが,
新規のコーキングが薄過ぎると意味が無いので,増し打ちする前に,このように↓直角にカットする
ことが望ましいです。
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雨がかかるところは,撤去したらその日のうちにコーキングした方が良いです。
雨が降って内側に水が入ったり,サイディングの断面が濡れてしまうと,なかなか乾きません。
【2】テープ養生
削りカスやゴミを掃除用のハケで清掃します。
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充填部以外にコーキングを付けないようにテープを張ります。
充填部に食い込むような張り方はダメです。 |
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このように↑サイディングに凹凸がある場合は,指で押えて,しっかりフィットさせてください。
面倒でも丁寧にテープを張らないと仕上りが汚らしくなります。
また,剥がす時のことを考え“剥がしやすいように張る”こともポイントです。
(一気に剥がせるところまでで一旦切って重ねる,末端はつまめるように長めにしておく,等)
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充填部の両側に養生テープを張るので,充填部の2倍程度の長さのテープが必要です。
(テープ1巻の長さは18メートルなので,充填部が100メートルだったらおよそ12巻です)
おすすめは,カモイ加工紙の「3303HG」ですが,サイディングの種類よっては別のものを使用
した方が良い場合もあるので,同社サイトの適合表を参照してください。
【3】プライマー塗付
コーキングをしっかり密着させるため,充填部に接着剤的下塗材「プライマー」をハケ塗りします。
必ず,使用するコーキングに適した専用品を使用しましょう。
ここで手を抜くとコーキングが剥がれやすく,剥がれたらまた撤去してやり直しになるわけですから,
非常に重要な工程です。
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この↑写真で,プライマーを塗ったところのサイディングの断面が濡れた色に変わっているのは,
古いコーキングがきちんと除去されていてプライマーが染み込んでいる証拠です。
(撤去が不十分で古いコーキングが残っていると濡れた色には変わりません)
プライマーは乾くとどこまで塗ったのかわからなくなるので,塗り残しがないように注意してください。
また,プライマーを塗ってから30分以上,当日以内にコーキングするのが適正な間隔です。
【4】ボンドブレーカー(または バックアップ材)装填
ここで,既に書いたことの繰り返しになりますが,大切なことなので,もう一度書いておきます。
このページの冒頭からリンクを張った外壁塗装 サイディング編に書いた通り,
建物の揺れや歪み,温度差によるサイディングの伸縮を吸収するために,
サイディングの目地部分は動くように出来ています。
そのような“動く継目”を「ワーキングジョイント」とよび,柔軟なコーキングを使用するだけでなく
動きやすいようにしておく仕組みが「2面接着」です。
同ページの図のように,サイディング同士の継目を2面接着にするために,
「ハットジョイナー」がある場合は「ハットジョイナー」の上に「ボンドブレーカー」が,
「ハットジョイナー」がない場合は「バックアップ材」が入れられています。
古いコーキングを撤去するときに「ボンドブレーカー」や「バックアップ材」も一緒に取れてしまう
ことがままありますし,使用するコーキングに適するものを使用しないと接着してしまうので,
状況に応じて交換しましょう。
下の写真はボンドブレーカー(ポリエチレンテープ)を貼っているところです。 |
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バックアップ材は断面が丸いものと四角いものがあり,サイディングの目地には
糊付きの四角いものがよいでしょう。
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ちなみに,その筋の本には「ワーキングジョイント」のコーキングの巾と深さを規定したグラフが
載っており,「最低の巾が10ミリ,その場合の深さが10ミリ」になっています。
この寸法は,封筒の「のりしろ」のニュアンスで「打ち代(うちしろ)」とよばれます。
ところが,ごく一般的な厚さの12ミリのサイディングでは,なぜか,その理想的な規定よりも
「打ち代」が少なく設定されているのです。
下の写真はプラスチック製のハットジョイナーで,寸法はごらんの通りです。
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この↑ハットジョイナーを使用して12ミリのサイディングを張ると,
打ち代は巾8ミリ,深さは7.5ミリしかありません。
しかも,タイル調サイディングの場合,タイル目地に見せ掛けた横方向の凹みがあるので
その部分の打ち代は,このように↓もっと薄くなってしまいますし,
縦方向の凹みも見せ掛けのタイル目地を兼ねていますから,コーキングは浅めに仕上げられています。
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私の感覚からすると,(タイル調サイディングの場合はデザイン優先で諦める?として)
最低でも「巾10ミリ/高さ2ミリ」のハットジョイナー+ボンドブレーカー,
または,ハットジョイナー無しで「巾10ミリ/厚さ2ミリ」のバックアップ材を入れべきではないか,
と思うのですが,厚さ12ミリのサイディングの建物は だいたいこんな↑調子で作られています。
(それでも10年間コーキングが破断しなかった建物も知っていますが,そのような建物はごく稀で
3〜8年程度で破断してしまうことが多いです)
脱線してしまいましたが,何を言いたいかというと,コーキングは厚みが大事,ということです。
ですから,ボンドブレーカーの代わりにバックアップ材を使用することや
ハットジョイナーが入っていない場合に,必要以上に厚いバックアップ材を使うことは厳禁です。
塗料を塗るように薄くコーキングしただけでは,“とりあえず隙間が埋まる”だけで,
「動きに追従して水の侵入を防ぐ」というコーキング本来の機能を得ることはできません。
ボンドブレーカーやバックアップ材は防水材料・資材店で入手可能です。
サイズがいろいろあるので,一部切除して確認の上で間違いがないよう購入してください。
なお,ボンドブレーカーとバックアップ材には,プライマーもシーリング材も接着しません,
というか接着しないものを使うのがセオリーですから,
ボンドブレーカーやバックアップ材の
装填後にプライマーを塗っても問題ありません。
【5】コーキング(シーリング)充填
コーキングには色々な種類があることは『外壁塗装の工程』のこのページに書いた通りです。
「低モジュラスでノンブリードのウレタン」または「低モジュラスの変成シリコン」を
使用してください。
「水性のコーキング」や内装用の「ボンドコーク」を使用する業者もいるようですが
「ワーキングジョイント」であるサイディングの目地には適さないのではないかと思います。
どのくらい使用するかは,目地の量(メーター数),目地の幅と深さによって結構差があります。
DIYの場合は余ってもしょうがないので,とりあえず10本か20本購入して作業を開始,
データをとって追加購入するのがよいでしょう。
サイディングの建物の宿命的な結果として,コーキングの上の塗膜は割れることがあります。
(柔らかくて動くコーキングの上に,コーキングより硬い塗膜を乗せるわけですから当たり前です)
下の写真は,“塗膜だけ”が割れて,白いコーキングが見えている実例です。
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よって,塗り替えの塗膜が割れた時になるべく目立たないように,コーキングの色が選べるなら
仕上色に近い色のコーキングを使用するとベターです。
(こう↑なるとコーキングに紫外線が当たるので変成シリコンが良いと思うわけです,私的には)
コーキングの他に,「コーキングガン」が必要です。
200円くらいで買えるものもありますが,こういう感じ↓の高めのガンの方が使い心地が良いです。
ホームセンターや建築金物店で手に取って決めてください。
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充填部に,にょろにょろと乗せてゆきます↓ |
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どの位が適量か,やってるうちに感覚がつかめてきます。
内部に空洞ができるのはマズイので,少ないよりは多めの方が良いです。
キリのよいところまで充填したらヘラで均します↓
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ただ均すだけでなく,内部に空洞ができないように最低1往復,押さえ込むようにしましょう。
この均しがいいかげんだと,密着せず,このように↓剥がれてきます。
(剥がしてみると内側がスカスカなので,ただ“均した”だけで,“押さえ込んでいない”ことがわかります)
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ホームセンターに行くと,金属やプラスチックのコーキングヘラが売っていますが,
弾力性のある素材のヘラで均した方がキレイに仕上がります。(ビビらないので)
プロは「ならし(仕上げ)バッカー」という“弾力性が異なる2枚のゴムを張り合わせたシート”を
必要な大きさに切断し,棒の先端に接着してから削って調整します。
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しかし,私が知る限り「バッカー」は,ごく少量では販売していないので,
DIYの場合は,このようなもの↓でも十分であろうと思います。
少々弾力性がある“キメの細かい発泡スチロール”のような素材です。 |
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また,均す時に余分なコーキングがヘラに溜まりますから,それをしごき取るために,
やや大きめの金属ヘラも用意しましょう。(←左手に持つ)
【5】養生テープ除去
均しが終わったら,早めにテープを除去します。
暖かい時期や陽当たりが良いところで あまり時間をおくと,コーキングの表面が乾いてきて
テープを除去する時にぐちゃぐちゃになるので注意してください。
このように↓棒状のものでくるくると巻き取ると効率がよいです。(コーキングの空き筒でもOK)
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テープ除去作業の動画です ↓ |
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出来上がりです↓ |
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以上,予想以上にすごく長くなってしまいましたが,コーキングのやり方です。
そのあとの工程について,以下補足しておきます。
コーキングは高圧洗浄の水圧に耐えうるまで硬化するには時間がかかります。
高圧洗浄する場合は十分な時間を置いてください。(夏でも約1日,冬は2〜3日以上)
しかし,逆に,コーキングを終えてから およそ1週間以上経過すると,塗料との密着が悪くなります。
その場合は硬化後のコーキングにも密着する下塗塗料を使用するか,コーキング部分のみ,
「バリアプライマー」「ブリードオフプライマー」「逆プライマー」等,
“コーキングの上に塗装するための専用塗料”を塗ってから外壁塗装を行うことが望ましいです。
ウラ技?として,コーキング用のプライマーを塗るという手もあるらしいですが,
当店ではやったことがないので,それで効果があるのかどうか知りません。
コーキング(シーリング)のメーカーに確認してください。
ちなみに,下の写真は,おそらく上記のような対策無しに塗り替えられたため,
コーキングの上の塗膜だけが剥がれてきた実例です。(ツメで引っ掻くと もっとぺりぺりイキます)
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「増し打ち」も「打ち替え」もせずに,年数を経過したむき出しのコーキングの上に塗装する場合は
このように↑密着せずに剥がれてくるケースのほか,「ノンブリード」タイプではないコーキングが
使用されていると,塗り替えた後にコーキングの上の塗膜が黒っぽく変色してしまう場合があります。
一般的な塗装仕様は,下塗+上塗2回=合計3回塗り,上塗塗料は単層弾性(ゴム系)を除き,
水性でもシンナー希釈の塗料でもOKですが,トタン用や木部用のOP(調合ペイント),
SOP(合成樹脂調合ペイント)はダメです。
新築時に工場塗装済のサイディングが張られている1回目の塗り替えの場合でも もちろんですが,
新築時に現場塗装した塗膜がある場合や2度目の塗り替えの場合には特に「今どうなっているのか」が
塗り替え仕様選択の要件になりますから,DIYでサイディングを塗り替える場合は必ず事前に
塗料メーカーに確認しましょう。
下記は,一般の方がサイディング外壁のDIY塗装を行った工事記録です。
ぜひ参考にしてください。
DIY外壁塗装日記
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