●素材別・部位別の注意点とそのポイント
◆ALCの外壁の塗装
(ヘーベル・シポレックス・ヘーベルライト・パワーボード など)
ALCの日本語での正式名称は「軽量気泡コンクリート」といい,「軽石」のようなものです。
「ヘーベル」「シポレックス」「ヘーベルライト」「パワーボード」はいずれもALCの商品名です。
鉄骨造には芯に鉄筋が埋め込まれた厚手のALC,木造には芯に金網が埋め込まれた薄手のALCが
使われています。(「ヘーベルライト」は厚さ50mm,「パワーボード」は厚さ37mmだそうです)
下の写真は木造住宅用の薄手のALCです。
ALCはコーキング(シーリング)が施されたパネルの継ぎ目で建物の動き・歪みを吸収する構造に
なっているので,それ以外の部分にひびが入ることは少ないですが,吸水性のある素材ですから,
塗装による防水性が失われて,浸み込んだ雨水が芯の鉄筋・金網にまで達するようになると
たいへんモロいです。
下の写真は厚めのALCが使われている鉄骨の建物です。
不審なひび割れが入ったあたりを叩くと他とは違う音がします。
下は 割れたところを撤去した後の写真で,黒っぽく見えているのが錆びた鉄筋です。
鉄は錆びると膨張します。
その膨張する力によって,パネル自体が 内側から割れてしまったわけです。
このALC外壁は新築時に防水性の乏しい「リシン」という吹付塗装仕上げをされたまま以後20年間
まったくお手入れされなかったために,「爆裂」とよばれるこのような劣化が至る所にあり,
下地補修に“塗る作業”の4倍位の時間がかかりました。
一般的には,新築時の外壁塗装が安価に済まされている事が少なくないので,理想としては6〜7年,
遅くとも10年程度での塗替えが望ましいです。
下の写真は築10年のALC外壁(南側3階)の高圧洗浄中の写真です。
高圧洗浄により,劣化のため粉化(チョーキング)した塗装がベランダの床面に白い水となって流れて
います。
う〜ん,我ながらベリーナイスな写真であります。パクり防止のため曽根塗装店のロゴを入れておきました(笑)
ALCを塗替えるにあたっては,継目のコーキングが傷んでいれば補修を行います。
コーキングがALCの断面から剥がれている場合は撤去してコーキングをやり直しますが,
築10年程度であれば,上から重ねてコーキングを充填する「増し打ち」(あるいは「打ち増し」)で
十分な場合がほとんどです。
下の写真は,下地とコーキングを密着させるための接着剤の役割を果たす「プライマー」という
無色透明の液体を塗っているところで,【文字】の上にマウスポインタを乗せると写真が変わります。
【プライマー塗付】
→【コーキング材を乗せる】
→【ヘラで押さえる】
ALC外壁の塗替えでは,補修に使用するコーキングの選択に注意が必要です。
他のページにも何度か書きましたが,コーキングには何種類もあり,ALCの継目に適しているのは
「低モジュラス」「ノンブリード」の「ウレタン」または「変成シリコン」です。
「モジュラス」
というのは,「反発力」というような意味だそうで,簡単に喩えると,
「低モジュラス」=こんにゃく,「高モジュラス」=タイヤのゴム,です。
ALCはコーキングが施されたパネルの継ぎ目で建物の動き・歪みを吸収する構造になっていると
前記した通り,動くことが予想される部分なので,柔軟性が高いものの方が良いわけです。
「ノンブリード」とは「ブリードしない」という意味で,「ブリード」というのは,コーキングに
含まれている成分が塗装を変質させて汚れを生じることです。
下の写真はALCの建物ではありませんが,「ノンブリード」でないコーキングを使用したために,
コーキング部分の上の塗装だけがくっきりと変色してしまっている実例です。
ALCは「表面の気泡の穴を埋めて塗装する」というセオリーがあるのですが,現実には
それが守られていないことが多く,特に「デザインパネル」とよばれる,表面に凹凸の模様が
刻まれたALCの場合,良く見ると穴が残っていることが少なくありません。
下は施工前の写真で,一見ちゃんと塗装されているように見えますが,近付いて見ると穴だらけです。
(マウスポインタを乗せるとアップの写真に変わります)
こんなに穴だらけなのは経年劣化のためではありません。
新築時に十分な下地処理(目潰し・目止め)が行われなかったからです。
新築工事では吹付塗装専門の業者が全工程を“吹き付けだけ”で施工してしまうのが普通で,施工する
職人のウデや心構えにもよりますが,吹き付け塗装の場合には塗料は直線的に飛んでいきますから,
平らな面ならともかく,模様や溝があるALCパネルの場合は,塗料が直角に当たりにくい分,
どうしてもこのような穴だらけの仕上りになりやすいのです。
以前,ALC建築専門の某ハウスメーカーの新築工事で外壁塗装の下請をしていた同業者から聞いた話
では,最初の工程はALC用の下地処理塗料を吹き付けた直後にブラシで入念に擦り込むよう指定され
現場監督がチェック,少しでも穴が残っているとやり直しをさせられたそうです。
新築工事ではそんな念入りな塗装工事ができる予算が出ないことが多いので,1〜2工程割愛して,
ぱぱーっと吹き付けておしまい,というのがごく普通だと思います。
この穴は高粘度(どろどろ)の下塗材を擦り込みつつ乗せるように塗ることで埋めることができます。
下の写真はALCパネル塗替え施工例のダイジェストで,【文字】の上にマウスポインタを乗せると
写真が変わります。
【下塗】
→【下塗/アップ】
→【上塗1回目】
→【上塗2回目】
→【仕上り】
→【仕上り/アップ】
“慣れ”とは恐ろしいもので,この↑お家の塗替え工事以後しばらくは 凹凸の少ない壁では物足りなかったです。
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