『最初の塗り替えを早めにしておくと後々の持ちが良くなる』というのは事実です。
理由は3つあります。
1.工期や予算の都合上,十分な塗装工事ができない場合がある。
あたりまえのことですが,新築工事は建築屋が仕切っています。
各専門工事業者は,その建築屋の下請けとして工事に関わるわけです。
スケジュールや仕様,そして予算は最終的には建築屋が決め,下請けの業者はその決定に従います。
建築屋の仕切りが悪い場合には,マトモなことができるはずがありません。
塗装は,最初に塗るものが一番肝心なので,新築時にイイカゲンな施工をされると後々まで祟ることも
あります。
2.外壁塗装の全工程が吹き付けによって行われていることが多く,膜厚不十分な場合がある。
木造モルタル新築時の外壁塗装は吹き付けによって模様付けが行われるのが普通です。
現在もっともポピュラーな「吹き付けタイル」(「ボンタイル」とか「玉吹き仕上げ」とも
いわれます)を例にとると,
下塗り(シーラー)→ツブツブの模様吹き付け→仕上げ(着色)
というような工程があり,ツブツブの模様の吹き付け以外はローラーで塗装した方が確実な仕上がりが
得られます。
しかし,新築工事の場合には「ガン屋」といわれる吹き付け専門の業者が施工することが多く,
たいていの「ガン屋」は下塗りも仕上げも吹いてしまいます。
私の経験上,ローラーでも塗れる仕上げ塗料を吹き付けで施工する場合には2回吹いて
ローラー1回分程度の厚みしか付かないと思います。
それから,「ガン屋」のウデにもよりますが,吹き付けだとムラになる=塗膜が薄い部分ができる
傾向は否めないと思います。
塗膜が薄いと,当然,耐久性に影響します。
3.モルタルのひび割れの安定期に塗っておくことに意義がある。
木造モルタルの建物は築後に,必ずと言っていいほど,外壁にひび割れが生じます。
ひび割れの原因は,モルタルが完全乾燥していく過程で痩せるからである,という説があり,
だから多少のひび割れはやむを得ず,築後1〜2年で安定し,以後ひび割れ発生が止まる,
というのです。
この説に従えば,安定期に入ったら早々に塗替えをしてひび割れを埋めておいた方が良いわけです。
以上,3つの理由により,『最初の塗り替えを早めにしておくと後々の持ちが良くなる』
と言えるわけですが,では,具体的に何年目が良いのかということは「新築時にどの程度の塗装が
行われているか」そして「現状がどうなっているか」によります。
「吹き付けタイル」で硬質アクリル上塗の場合,
ツヤが無くなっていく→白っぽく変色→手でこすると白い粉が付く
→よく見ると表面に甲羅状の細かいひび割れができている,
という感じで劣化してゆきます。築5年目ならば,普通は,「ツヤがなくなってきたかな」という程度
のはずで,一番陽当たりの良いところの壁を手でこすってみて,粉が付かず,目立つひび割れが無い
ならば,まだ塗替える必要はないです。
私の過去の経験では,築5年目で全面塗替えを行ったという例は記憶にありません。
理想は(アクリル系塗装で)6年ですが,現実には早い人でも8年位,平均で10年前後では
ないでしょうか。
ですから,S様が予定されている通り,『後2〜3年』は(全体の)塗替えの必要は無いであろう
と思うのですが,私としては,現状を見ている『施工した担当の方』が,何を根拠に5年目で
そう言ったのかが気になるところです。
外壁のひび割れでしょうか?外階段鉄部の錆びや木部塗装の劣化でしょうか?
●外壁のひび割れという想定でのコメント↓
私が思うには,「モルタルの痩せ」のせいもあるでしょうが,建物の歪みがひび割れの主原因です。
ひび割れの起こる度合いは,地盤の良し悪し,建てた建築屋の技術レベルによって,ものすごく違いが
あるようで,私は過去に,築4年でそこら中ひび割れだらけになっている建物も,築30年以上で
ほとんどひび割れの無い建物も見たことがあります。
また,木造での3階建ての場合にはとりわけ高度な設計力としっかりした施工が必要とされる
という話を耳にしたことがあります。
どんな建物でも,築後に多少の歪みは生じるでしょうから,少々のひび割れならあまり心配することは
ないと思いますが,巾1ミリを超えるようなひび割れがたくさんあるようだとマズイです。
地盤,あるいは,基礎や建物本体がヤワに出来ていることが原因している場合には,塗り替えても
また同じことが起こります。
●外階段鉄部の錆びという想定でのコメント↓
賃貸住宅を兼ねているそうですので,多分雨曝しの鉄階段が付いているかと思います。
錆が出てきているようだと,塗り替えた方が良いです。
新築時には,鉄骨業者が工場で錆止め塗料を塗ってから,部材を現場に搬入し,組み立てます。
そして,塗装屋がこの上に1回ペンキを塗ってオシマイ,というのが,町の工務店レベルの実状
でしょう。これだと,3年未満で錆びてきます。
錆止め塗料には多くの種類とランクがあり,用途や性能が異なるのですが,鉄骨業者が使用している
錆止め塗料は最低ランクのものであることが多く,悪く言えば,ただ赤いだけ,錆を抑制する効果は
ほとんど期待できません。
ある時,新築現場で会った鉄骨業者に尋ねてみたら,当店が標準で採用している錆止め塗料の半額
以下のものを使っていることがわかり,びっくりしたことがあります。
それから,“ペンキ”にもランクがあり,これまた,特に指定が無い限りは最低ランクのペンキが
使われているのが実状でしょう。
余談になりますが,歩道橋の場合,町の塗装屋が使っているよりも高価な塗料を3回も4回も塗って
仕上げられ,それでも10年以内にはまた塗替えます。
歩道橋や鉄橋の端っこには塗装年月日と使用した塗料の種類,塗り回数が必ず表示されていますので,
ちょっと注意して見つけてみて下さい。
●木部塗装の劣化,という想定でのコメント↓
『築5年』だそうですから,外部に木部は無いと思いますが,もし,ある場合は遅くとも5年ごとに
塗り続けてください(理想は3年ごとです)。腐って交換することになったら,オオゴトです。
外壁に関して,今塗り替えるべきか?2〜3年後でも問題ないか?正確な判断は,まさしく
『現状をみないと分からない』ため,御要望があれば,お伺いいたします。
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