●素材別・部位別の注意点とそのポイント
◆鉄部の塗替え(トタン外壁・屋根・庇,鉄階段など)
トタンは新築時から8年くらいで表面が粉っぽくなってきたら,そろそろ塗り頃です。
すでに塗替えてあるトタンの場合には,これまでに“どの程度の状態になってから塗られてきたか”
ということと“どのように塗られてきたか”によって,今後のもちがぜんぜん違います。
次の塗替えまで,3年もたない場合もあるでしょうし,5年以上ぜんぜん平気な場合もあります。
あまりにも状態が良くない場合は塗替えではなく,張り替えた方がよいです。
下の写真は剥がした屋根のトタンの表側です。
見積にお伺いして屋根に上がった時,全面錆だらけということもなく こんな感じなので,一見,
塗替えればまだ大丈夫なように思いました。
しかし,よく見ると丸で囲ったあたりにはプツプツと針で突いたような小さな穴が開いていて,
指で強く押すと,メリメリと食い込んで破れてしまう状態だったため,塗り替えではなく葺き替えを
おすすめしました。
「この程度で葺き替え?」と思われるかもしれませんが,写真にマウスポインタを乗せてください。
裏返しにした写真に変わります。
このお家は築25年で,屋根は過去2回ほど塗替えされていました。
塗替えの間隔が長過ぎ,しかも,あまりしっかりした塗装が行われていなかったために
こうなってしまった,といえます。(過去に錆止塗料を塗った形跡が全くありませんでした)
現在,戸建住宅に使用されている標準的なトタンの厚さは0.35ミリだそうです。
いくら塗り替えを頻繁に行っても,剥がして裏側まで塗るわけではありませんから,裏側の湿気で
錆びるということもあると思いますが,トタンは薄いだけに,錆びると穴が開きやすいです。
なるべく,錆びる前に塗替えたいものです。
トタンや鉄骨など,鉄部を塗替えるにあたっては「ケレン」をどの程度行うかが,とても
大切です。
「ケレン」とは英語の「clean」が訛ったといわれる塗装用語で,簡単にいえば,「キレイにする」
という意味ですが,鉄部の場合には,鉄ヘラやサンドペーパー,場合によっては電動工具を用いる
作業を意味します。
ケレンが不十分だと,キレイに仕上らないだけでなく,後で塗装がベロベロ剥がれたり,またすぐに
錆びてしまったりします。
下の写真は木目がプリントされた雨戸の鉄板を通称「マジックロン」といわれる研磨材でケレンして
いるところです。
下の写真は「折板屋根」とよばれる厚さ0.6ミリの金属屋根を電動工具を使ってケレンしている
ところです。
「オートケレンダー」という工具で,先端の研磨材付きの円盤がモーターでぐるぐる廻ります。
下の写真は「縞鋼板」とか「チェッカープレート」とよばれる凹凸のある鉄板を電動工具により
ケレンしている途中で撮ったものです。
コレ↑すごくケレンしにくくてペンキ屋泣かせなんですよね。
鉄部のDIY塗装の御質問でよくあるのが,「どこまでケレンすればよいのか?」というものです。
下の写真の,結構キテいる鉄骨を例に御説明します。
【文字】の上にマウスポインタを乗せると写真が変わりますのでごらんください。
【現状】
→【鉄ヘラ】
→【サンドペーパー】
→【電動工具】
最低限,サンドペーパーの段階まではケレンしてください。
電動工具で既存の塗膜をすべて剥がすのが理想的ですが,残っている塗膜が簡単には剥がれない
ようであればその上から塗り重ねるのが通常の塗替えです。
但し,錆びていなくても,必ずケレンしてください。
表面には汚れが付いていますから,ケレンをしないと上に塗る塗料が密着しません。
それに,サンドペーパーや「マジックロン」でこすることによって付くキズは上に塗る塗料の密着を
向上させます。(この場合「目荒らし」「足付け」ともいいます)
ケレンせずに塗られた塗料は,次に塗り替える時にケレンするとペロペロとイヤ〜な剥がれ方をする
ので,すぐにわかります。
↑こういう場合,気に入らないので全部剥がそうとすると,どえらい手間がかかります
これまで,DIYに関する御質問をされた方と幾度もメールでやり取りしてきましたが,
実際に鉄骨やトタンの塗替えにトライした皆さんは,口を揃えてケレンが如何にタイヘンかを
語られます。
> 錆び落とし作業って辛い (>_<)
> 自分でやってみて、職人さんの凄さが解りました!
(40代前半/女性/千葉県)
> 正直言ってペンキを「塗る!」と言うことを考えていたので、
>
その下地作りにこんなに労力を使うとは考えていませんでした。
>
大変な作業です!プロレス並みの根性と体力が必要かも知れません。
(40代前半/男性/神奈川県)
そうなんです,御自身で一度でもやってみれば「ケレン」は「塗る」よりもはるかに重労働である
こと,きちんと「ケレン」する方が 1回「塗る」よりもはるかに手間のかかる作業であることが
身に染みてわかると思います。
「ケレン」は塗ってしまえば わからなくなる工程ですが,その後のもちに大きく影響します。
ですから,「ケレン」に時間をかける業者は真面目な業者だと考えてほぼ間違いありません。
さて,ケレンが済んだら塗りに入るわけですが,まずは錆止塗料を塗るのがセオリーです。
マトモな職人なら,きちんとケレンを行うと鉄面に達するキズができることや上塗塗料よりも
錆止塗料の方が格段に密着性が良いことを体験として知っているはずです。
従って,業者が「錆びていなければ錆止塗料を塗る必要はない」という一見もっともらしい理由で
錆止塗料を省いたり,部分塗りだけで済ませようとする場合は,追加料金を払ってでも全面に
錆止塗料を塗ってもらった方がよいと私は思います。
でも,錆止塗りを省くような職人が来たら,というか,そんな業者を選んでしまっているという時点で,
あなたはすでに失敗しているのかもしれません。ケレンもロクにやってないでしょうから...。
下の写真は,錆が生じていた部分に白い錆止塗料を拾い塗りした後で,グレーの錆止塗料を
全面塗りしているところです。
錆びているということは表面がざらざらしているわけで,顕微鏡的に見ると尖った部分があり
膜厚が付きにくいので,長持ちさせたい場合は塗り重ねておくとベターです。
(このように,部分的に余計に塗ることを「増し塗り」といいます)
錆止塗料にも数多くの種類があり,建築塗装業界のスタンダードは「JIS K 5625 シアナミド鉛」と
いうものです。
但し,環境問題の絡みで,鉛,亜鉛,クロムなど旧来からの重金属を含む錆止塗料に代わって,
今後は「エポキシ樹脂」を含む錆止塗料が主流になっていくのではないかと思います。
エポキシ樹脂系の錆止塗料もピンキリなので,錆びた鉄部への塗装をなるべく長持ちさせたい方は
塗り替えに用いる上塗塗料だけでなく,錆止塗料のグレードにも注意してください。
錆止塗料に限らず,塗料のカタログには,最低ランクのものでも良いことしか書いてないので,
ある塗料の位置付け・グレードを知るためにはその塗料のメーカーに電話して尋ねるのが近道です。
錆止塗りが済んだら次は上塗りです。
鉄部やトタンの上塗りに使用する塗料のうち,最も安価な塗料は,いわゆる「ペンキ」とよばれる
「合成樹脂調合ペイント」=「SOP」です。
SOPは安くて塗りやすいという点では“良い塗料”なのですが,陽当たりの良い部分では2年程度で
ツヤが無くなり,5年も経つと,「そろそろダメかな?」という状態になってしまいます。
「安くて塗りやすければ最高じゃん!」としか思わない方は別として,他のページにも書いた通り,
SOPの上にアクリル樹脂塗料,その上にウレタン樹脂塗料,さらにその上にシリコン樹脂塗料,
そのまた上にフッ素樹脂塗料というようなグレードがあります。
昨今の住宅塗り替えでは,外壁の塗装にウレタンやシリコンが採用されることが多くなってきていると
思いますので,外壁塗替えをそのような塗料で行うのであれば,トタンの庇なども次の外壁塗替えまで
もつような塗料を使用しておきたいものです。
現在は塗装済みのトタン「カラー鋼板」が一般的ですが,築30年以上のお家の場合,新築時に
【無塗装のトタンの上に現場塗装】されていることが多く,しかも,その際,亜鉛メッキ面に適する
下塗塗料が使われていることがほぼ皆無なので,剥がれはじめると,これまで塗り重ねられた塗料が
そっくりめくれてくることがあります。
下の写真はケレンにより亜鉛メッキが剥き出しになったトタンです。
このような状態の場合,再塗装にあたって亜鉛メッキ面に密着する下塗塗料を採用すれば
よいのですが,古い塗装を剥がし残すとそこから剥がれてくるので,全部剥がしてから塗ることが
理想です。
完全に全部剥がすには膨大な手間=人件費がかかるので,張り替えてしまった方がよいことも
あります。
最後に,オマケとして,戸建住宅での外部の鉄部塗装仕様について,「月刊 建築知識」の依頼で
私が書いた原稿(に少々手を加えたもの)
を以下に掲載しておきます。
新築工事をお考えの方がいらしたら,参考にしてください。
【1】搬入・取付
・現場に搬入される以前の段階で,すでに鉄骨業者により錆止塗料の塗付が行われている場合が
ほとんどであるが,最低でも「JIS K 5625 シアナミド鉛」を指定することが望ましい。
(「JIS K 5621 一般錆止」クラスの廉価品とシアナミド鉛との材料費の差額は平米当たりに
換算すると50円程度の差額でしかない。)
・また,筆者の経験では,鉄骨業者により錆止塗料がゴテゴテに塗られていたがために
見苦しい仕上りにならざるを得なかったという事例に幾度も遭遇しているので,
仕上りの美しさを求めるのであれば,餅は餅屋で初めの錆止塗料の塗付の段階から塗装業者に
任せた方が良いと思われる。
【2】下地調整(ケレン)
・モルタル,外壁塗料,ゴミ,ホコリ等が付着していれば鉄ヘラやサンドペーパーにより除去する。
【3】錆止塗料塗付
・改めて錆止塗料を全面に塗付する。
(くどいようだが「JIS K 5625 シアナミド鉛」以上のグレードが望ましい)
・錆止塗料の乾燥後に目の細かいサンドペーパーを軽く当てておくと肌触りが良くなる。
【4】上塗塗料塗付
・上塗塗料を2回塗りする。
(上塗2回がカタログ通りの施工であるが,1回で済まされることが多いのが実状と思われる)
・外部の場合,耐候性を考慮すべきであるから,弱溶剤2液形ウレタン樹脂塗料以上のグレードが
望ましい。
■新築後,鉄部は外壁よりも先にメンテナンスの必要が生じるのが普通であるが,施主に
「あまりにも錆びるのが早い」と感受されると,クレームになる場合が少なくない。
外部の鉄部での「鉄骨業者による廉価品錆止塗料1回塗り+塗装業者によるSOP1回塗り」
というような下等な仕様の場合,部位によっては数カ月で錆びが生じる。
■アルミ製のベランダやフェンスが当たり前なこの時勢にあえて鉄を用いるメリットとしては
形状の自由度と独自の色彩の付与が考えられるが,鉄部そのものや周辺の形状が複雑だと築後の
塗替え作業に支障が生じる場合がある。
例えば,「塗れない隙間」があれば鉄はそこから腐食して将来要交換となり,施主に多大な出費を
強いることになるので,単なる見てくれだけの設計ではなくメンテナンス性にも配慮が必要である。
■外部に鉄を露出させる造りの建物の場合,20年30年先までの耐候性を考慮すると,
「ドブ漬けの亜鉛メッキ」にすることが望ましく,外部の鉄階段などで久しく以前から
そのような仕様を採用しているハウスメーカーや建築業者も少なくない。
(色彩の問題で塗装仕上とする場合には、亜鉛メッキに適する下塗を行うことが必須)
※「耐候性」とは陽射しや雨など,紫外線・熱・水分 等の影響を受ける外部での自然の環境下での
耐久性のことです。
下記は関連するブログ記事です。
・鉄扉の塗装
・鉄の塗装(新設)
・「DIY鉄骨塗装」終了(上の記事の続きです)
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